ムーンバパレード2010

 シティに着くと雨はあがっていた。重くたちこめていた雲も色を薄めていった。

  つい20分前、車の待ち合わせの時は土砂降りだった。車の中では事務局の吉浦亮子先生が担ぎ手参加者からの問い合わせの電話でおおわらわ。まだ早朝の7時前だというのにひっきりなしにかかってくる。

  前々日は雹と豪雨に見舞われ、シティ内が川と化した。その後も断続的に雨が降り、パレードができるのかどうかは、誰もが心配していた。主催者のメルボルン市は『パレードの時間には晴れます。』と言っていたが。
私にとっても、今年のムーンバの実施は大きな関心だった。永嶋さんが日本へ旅行中のため、代行として神輿の先導役を依頼されたのである。

  ムーンバでは神輿は道に真っ直ぐには進まない。ストリートの両端どちら側の観客にも神輿をよく見せるために、右端に寄ったら次は左へ、というような具合にジグザグに進んでいく。また時として時計回り・または反時計回りにと神輿を回転させたりもする。

  日本の神輿の作法とは違う。ムーンバというイベントのなかで、魅せるためのアレンジ版なのだろう。YouTube などでいくつもの神輿担ぎの動画をチェックしてみた。ムーンバのような動きをしているものはない。加えて有名な三社祭りなどでは掛け声が「ソイヤソイヤ」 であったり、きれいな練り足なのだが、それはムーンバでは前後の他の団体とのスピード・リズムを合わせる必要上、不都合であったり。

 日本でどれだけの神輿経験があろうとも、ムーンバの神輿はまた違うのだ。
永嶋さんが不在となると、私に話がまわってくるのも当然と思えた。
不安もあるが、とにかく引き受け、いくつかの目標を設定した。
・怪我のないようにする。
・筋肉痛程度になってもらうぐらいの勢いでやる。
・パレードの間決して止まらない。
・とにかく盛り上げることを意識する。

 
 差し上げは最低3回は行う。担ぎ手の集合は8時、ここでは鉢巻の締め方の説明をする。神輿を組み立て、9時から練習。この日初めて顔を合わす人が圧倒的多数の中で、出発する11時までが神輿チームとして唯一の練習時間である。

  神輿を担ぐのは16人。身長が同じ位の6人1チームを4チームつくり、前後左右の担ぎ棒に割り振る。6人のうち4人が担ぎ、そのチームの中で適宜交代することを申し渡した。身長差があるので、前が低く、後ろが高くなるように配分した。
 
 この時に伊藤昇次君より申し出があった。私が抑える最前列の担ぎ棒の勢いを受けのには、体力が必要だというのだ。それをやってくれる、と。180cmと いう長身であるにも関わらず、中腰ででも前棒を担いでくれるという申し出である。昇次君はそれだけでなく、神輿の組み立てから、終わったあとの後片付けと 最後まで手伝ってくれた。
永嶋翼君もまた、私の目の届かない周りの盛り上げを買ってでてくれ、やはり組み立てと後片付けもしっかりとこなしてくれた。

  参加者の日本からの短期留学生たちは、気軽に他の団体(フラメンコ、カンガルーの被り物などなど)に声をかけては一緒に写真をとらせて貰ってい る...だけではない、他の団体からもまた、彼ら・彼女らに対して声をかけている。私達にとって他の国の民族衣装がそうであるように、他の国の人たちに とって捻り鉢巻を締め、赤いハッピを羽織った姿はエキゾチックに映るのだろう。彼らはこの後は大変に頑張ってくれ、昇次君・翼君を含めて、若い力を感じた 今年のムーンバであった。

 
 いよいよ出発。リズムを合わせる太鼓は快く聞こえた。担ぎ手も良く見えた。前をゆくメキシコ、次のトルコのグループも良く見えた。

  前後の団体のスピードを考えながら、神輿を先導してゆく。時には回転したり、バックしたり、盛り上げるべきと感じたら差し上げさせたり。実際に やってみるとやはり問題も見えてくる。まずは神輿の担ぎ手以外の周りの盛り上げができなかったことだろう。神輿と担ぎ手、前後の団体しか目に入らなかっ た。

  次に、思った角度を取ることができなかったことである。ジグザク運行や回転を基本としているが、ここだけはこの方向を向かせたいと思ったときに、 思うようにできなかった。例えばメインの観客席の前では、進行を止め、観客に向かって真っ直ぐ、ストリートに対しては90度の角度で差し上げをしたかった のだが、斜めのまま進んでしまった。
他にも前の団体とのスピード調整のために1つのところで2周も回転してしまったこともあったし、咥えていた笛を落としたこともあった。

  失敗もたくさんあったが、自身に課したハードルは何とかクリアしたな、という感じている。神輿の団長という貴重な体験をさせていただいて感謝して います。そのような感慨に耽る間もなく、メルボルン市の準備したバーベキューに並んでいると、再び振り出した雨にずぶ濡れになってしまった私でした。

 矢部勝義 記

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