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介護看護ネットワーク 20100415

 今回は、日本で最初に自分の家を提供したミニ高齢者ホームの実践者についての記事を抜粋します。こういう高齢者の受け入れの形を、将来的にメ ルボルンでもできればいいのでは、と考えています。

以下、「ミニ高齢者ホームでの一日」という久田恵(作家)のエッセイの抜粋です。自身も父母の介護に直 面していました。(随筆時)

 今回、朝7時、はるばる埼玉までやってきたのは、所沢に新しく誕生した「ミニ高齢者ホーム」へ向かうためだった。駅から10分、白い2階建てのアパート、結婚したての若い夫婦が、新生活のスタートの場所に選ぶような6室ほどの小さな新しい民間アパートだ。

 でも、ここが「高齢者ホーム」と半信半疑でドアベルを押した。中から「ハーイ」と明るい声がして、でてきたのは、50歳ぐらいのエプロン姿の品の 良い奥様っぽい女性。 勧められつつ玄関にはいると、すぐに小さなダイニングキッチンがあって、彼女は、朝食の準備を始めていたらしい。「そのへんにお座りになってて。Aさんも Bさんもまだお部屋だから。」実に快活な声である。

 聞けば「高齢者ホーム」と言っても入居者わずか2名。91歳と81歳の女性で、ダイニングキッチンに続く2部屋を彼女たちがそれぞれ占有している。

 この仕事を始めるようになって、2DKのスペースに彼女は、自分用の部屋とトイレと浴槽を増築した。
結婚して30年専業主婦一筋だった。夫は大学教授で、子どもはすでに成人した。ようやくやりたいなにかができるようになった。とはいえ、それが「高齢者ホーム」とは、なんと大胆な方でしょう。

「でも、私は父と母と義父の介護をしたし。一番得意なことを仕事にしたわけで。今が一番無理してない感じよ。」「でも、ご主人は?」「あの人は好き にしなさいってタイプだから。私がこっちに来て暮らしていても別にどうってことないのよ。」 話しながらも、手が休みなく動く。洗ったレタスをかごにあけて水を切ってきゅうりをサッと切り揃える。それは、どこにでもある穏やかな家庭の朝の風景で、 こちらとしても近所の主婦友だちの家にちょっと立ち寄った気分で、たちまちこの雰囲気に馴染んでいく。テーブルにランチョンマットをひいて、サラダとトー ストと目玉焼き。、果物と紅茶をそろえた所に、81歳のBさん続いて91歳のAさんが出てきた。小柄な彼女は少々心もとないが、自力できちっと席にお着き になった。

 不思議な光景だった。ほんの1ヶ月前まで、赤の他人だった90代と80代と50代の女3人が、3DKのアパートの一室で仲良く朝食をとっている。 ああ、そうか。これはお金で買う高齢者のための 「介護つきホーム(家族)」なのね。買えるんだ。家族って。しかも、値段は有料高齢者施設より安い。
 
 預かり保証金が百万円。月額の支払いは、部屋代、食費、管理費、お世話代、すべて含めて約22万円。一人暮らしでもこのくらいかかるし、専任のヘルパー さんを頼んだら、人件費だけでも50万円くらいだもの、安い。で、そのうちの彼女の収入分は、どれくらいかというと、これが一人10万ずつで20万円と か、24時間勤務でこれじゃ大変でしょう、と思うが、たぶん、これはお金を儲けようなどというさもしい人には、とうていやれない立派なお仕事なのだ。
さらにBさんの髪を「あら、すいませんねえ。」と言われつつ、洗面所でシャンプーをし、ドライヤーで乾かし、仕上がった洗濯物を日の注ぐ庭に出て干し始めた。

 その間の一時間半、私はAさんの部屋で過ごした。彼女の部屋は庭に面した日の当たる6畳で、ベットとテレビと勉強机と整理タンスと仏壇が置いてある。

「長男がね、家を改築するんだけど私の部屋がとれないの。次男の家にも部屋がないの。それで、ここに来たんですけど、もうずっとここでいいかしら ね。で、ここで市民権をとったのよ、私。週2回、ディケアセンターにも行って、趣味のお仲間を作ろうと思いますのよ。」91歳になってから他人の家で暮ら すという環境の激変に文句を言わず受け入れて、なおかつ積極的に生きようとしている。なかなか凄い人だ。

 午前中の家事が終わったのが、午前10時。さっそく白い日産サニーのワゴン車にAさん用の車椅子を載せて、所沢の「航空公園」に皆で出掛けた。お 散歩はいつもここ。お天気が良ければ、毎日来る。Aさんを載せた車椅子を押し、その傍らでをBさんが歩いていく。時間がゆっくり流れていく。Aさんの歩く 練習を少しして、公園を1回りして、車でアパートに戻ったら、まだ11時15分だった。お昼までそれぞれの部屋で一休み。

 81歳のBさんは、少し認知が入っていて、何回か同じことを聞きにくる。同居中だった息子さんが単身赴任で大阪へ、お嫁さんが病気で入院してしまい、彼女はここに来た。 昼食が済んだら、お昼寝。主婦の仕事は、午前中に集中している。夕方まではスイッチオフとなる。

 介護は大変という観念があるけれど、これを「仕事」としてちゃんと向き合ったら、全然違ってくる。
彼女は、夜勤も含めたヘルパー研修を 20日間受けて、痴呆性老人の介護も学んできている。彼女は、家庭介護の良さを生かし、かつ一人でも自宅でもできるミニ高齢者ホーム作りの実践者第一号な のだ。思考錯誤しながらも、モデルを示し、高齢者の幸せを追求する自立自助の民間の知恵に溢れる低力を世間に知らしめなければならない。
 
 彼女は、洗濯物を取り込んだりの家事を始めた。午後6時半の夕食の時間になった。 かぼちゃの煮つけときゅうりとワカメとしらすの和え物、ほうれん草の胡麻和えに大根おろし付のステーキにサラダと味噌汁。

 夕食の席では、明日、彼女が連れて行ってくれる「講演会」の話で盛り上がった。吉村作治先生のエジプト遺跡発掘の話を聞くそうで、Aさんはいたく 楽しみにしていた。彼女は、足が弱って一人では出掛けられないAさんを車でどこへでも連れて行く。Aさんにとって、それは自分の家では味わえないサービス だ。そういう一人ひとりの個別の要求に応えられる、それがミニホームのよいところだ。

 人生最期までなにがおこるかわからない。彼女たちのように、自分の家族はあるのに、最期には自力でまた新しい居場所を買うことになるかもしれない。ウーマンリブはもう古い、これからはシルバーリブ、高齢者開放よね。」と心に決めたのだった。
(注:このエッセイは2000年に書かれたものです。)

 介護・看護士、理学療法士など、高齢者介護に関わっている方がいらっしゃいましたら、ご連絡ください。リスト作成をしています。
みどり This email address is being protected from spambots. You need JavaScript enabled to view it. 0418-540-865

秋元みどり 記